■書名:医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得
■著者:工藤広伸
■発行:廣済堂出版
■発行年月:2015年11月11日
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祖母と母のダブル介護から得た「介護者が”しれっと”過ごす」秘訣とは!?
この本は、プロの介護職に向けたマニュアル本ではない。認知症の人を介護する家族に向けた本だ。しかし、著者の介護者としての視点は、プロの介護職にもとても参考になる。また同時に、介護家族の気持ちも、より理解できるようになる一冊だ。
著者の工藤広伸さんは、子宮頸がんで認知症の祖母と、同じく認知症を患った母をダブル介護した経験を持つ。しかも、同居ではなく、自分が住む東京と、祖母・母が住む岩手県盛岡市との間を往復する「遠距離介護」であったという。
余命半年と宣告された祖母が他界したあとも、要介護1の母の介護のために、現在も盛岡市に1週間、東京に2週間滞在する生活を続けている。母を東京に呼び寄せないのは、「認知症患者にとって、環境の変化は想像以上にマイナス」という自らの経験があるからに他ならない。
ここまで読んで「認知症患者の世話は、つきっきりになることが多いのでは? なぜ遠距離での介護が可能なのか」と疑問に思う人もいるかもしれない。
工藤さんのモットーは、「使える制度は使う、頼れる人に頼る、面白いツールは試す」こと。まだ日常生活が難なく送れる要介護1ということも、遠距離介護を可能にしている理由のひとつかもしれない。しかし、受け身ではなく自分で動き、ひとりで負担を抱え込まないような体制を整えていることが大きいだろう。
本書では、工藤さんが身をもって体験したさまざまな情報を紹介している。みなさんは、介護の仕事のなかで、セオリー通りの対応方法をやってみて、「あれ? 実際にやってみると違うな…」と思うことはないだろうか。
例えば、「同じことを何度も繰り返し言う」ことに対する対処法だ。よく「初めて聞いたように聞いてあげるとよい」とあるが、介護者にとっては、それがストレスになってしまうこともある。工藤さんは、介護者のストレス軽減のため、あまりにもひどいときは、やんわりと「その話は聞いたよ」と指摘することもあるという。
そのほかに紹介されているケア方法や情報は、下記のようなものがある。
●介護者のストレスを減らす、「ホワイトボード」の使い方
●GPS機能付きの携帯電話は、認知症患者の徘徊に有効か
●デイサービスを拒否するときの対応法
●たった5秒で認知症を判断する方法
また、安全と言われるクッキングヒーターではなく、あえてガスコンロを工藤さんが選んだ理由を読むと、目からウロコの情報であると感じる。
また、介護者が介護を始めて通る4つの心理ステップも紹介。実際に介護を行ってきた工藤さんだからこその説得力のある内容だ。介護サービスを利用する家族とのコミュニケーションにも役立つのではないだろうか。
6章の「介護者が毎日を、”しれっと”過ごすために必要なこと」も、介護の仕事をする上で、ヒントになる情報が詰め込まれている。
<一般的には困難とされていることでも、取り方ひとつでプラスにも考えられます。これは認知症にも言えることで、介護者の気持ち次第では、笑いに変えることもできます。
極限まで追い込まれていないからそう言えるのかもしれませんが、今後も極限は見たくないです。だから工夫に工夫を重ねて、とことん楽しもうと思っています>
本書は、実際に介護をする家族ならではの視点で、かつ、認知症介護をポジティブにとらえて書かれている。最近、介護に対する自分の思考が固定化されているかも…と感じる人は、リセットするためにこの本を読んでみてはいかがだろうか。
著者プロフィール
工藤広伸(くどう・ひろのぶ)さん
介護ブログ「40歳からの遠距離介護」を運営しながら、家族の介護をしている。40歳の時、余命半年と宣告された祖母の子宮頸がんを機に介護離職。認知症でもある祖母と同時に、認知症が発覚した母のダブル介護のため、遠距離介護を開始した。現在も東京~盛岡間、片道500kmを5時間かけて、年間20往復している。