介護と医療はもっと連携が必要、とよく言われています。
ただ、介護職からは「高い専門性をもって忙しく働く医療職との連携は、どうも苦手で…」、という声をよく聞きます。
一方、医療職からは、「生活を大切にする介護職のテンポが、どうも医療のテンポと合わなくて…」、とやはり連携に苦手意識を持っている話を耳にします。
どうすれば連携がうまくいくかに知恵を絞る厚生労働省は、「もっと連携を!」とハッパをかけるだけでなく、具体的に連携できる仕組みづくりを進めることにしました。
2015年4月、全国の市町村に2018年度までに患者情報を共有するシステムを整備することを義務づけたのです(*)。これは、病状や服用している薬など、病院が持っている患者の情報を、患者本人の同意を得た上で、在宅で患者をケアする在宅診療を行う医師や介護職、看護職と共有するというものです。
共有した情報を生かせれば迅速な対応が可能に
高齢者はいろいろな病気を持っていることが多く、入退院を繰り返す人もいます。切れ目のない支援をするためには、入院する際には在宅での病気の経過や、その人のADL、生活状況、対応上配慮すべきことなどの情報がある方が、治療はスムーズ。また、退院時には在宅では何に気をつけてケアをすればよいかという情報が必要です。
今回、国は情報共有のシステム整備のため、市町村に対して財政支援も行うとのこと。連携を本気で進めようという意欲を感じますね。このシステムでの情報共有を現場で生かせれば、例えば医療側から提供された情報をもとに、日々の支援を行っているヘルパーが容態の急変に気づき、迅速な対応を取るといったこともできます。
しかし、ただシステムが出来上がっただけで、連携がうまくいくというわけではありません。連携の基本は人と人とのつながり。医療との連携を得意とする、あるケアマネジャーは、介護職が医療と連携する時に必要なのは、病気や薬についての知識より、「コミュニケーション能力」だと言います。つまり、大切なのは、相手を理解し、尊重してコミュニケーションを取ることなのです。
介護職と医療職は視点もほしがる情報も違う
このケアマネジャーはこんな話をしていました。
ケアマネジャー自身が、手にケガをして入院したときのこと。介護職を含めた周囲の友人たちから受けた質問と、仕事で付き合いのある医師から受けた質問の違いに、これは!と思ったそうです。
友人たちは、「食事は食べられているか」「仕事は大丈夫か」「風呂には入れるのか」など、生活面について質問。
一方、医師は、「どんな手術をしたのか」「指は動くか」「むくみは出ていないか」など、医療面、身体機能面について質問してきました。
手のケガという一つの出来事を受けて、医師が考えること、知りたい情報は、介護職や一般の人達とは違うことを、このケアマネジャーは改めて感じたと言います。介護職が医師などの医療職と連携していくときには、そうした視点の違いを理解した上で、医療職が求める情報を、医療職が受けとりやすいようコンパクトに伝えていくことが大切だと、ケアマネジャーは言います。
なぜ、介護職ばかりが医療職に配慮しなくてはならないのか、と思う方もいるかもしれません。それはもっともなことですし、双方が配慮し合えるのが理想的です。しかしこのケアマネジャーは、「対等であろうと思いすぎないことも、連携をうまくいかせるコツ」とも言います。
医療職は、何かあった時に社会から非常に強く責任を問われる立場にあります。その責任は介護職よりはるかに重く、常に高いプレッシャーにさらされています。忙しく、重い責任を背負ってプレッシャーにさらわれている医師などの医療職に、介護職への配慮を求めてもなかなか難しいかもしれません。それより、利用者の立場に立って考えることが得意な介護職が、利用者ならぬ医療職の立場に立って考え、配慮する方がうまくいきそうです。
連携の目的は、利用者にとって最適なケアや支援を提供していくこと。その目的を達成するためには、相手の対応が変わることを期待するより、自分の対応を変えていく方が早いのかもしれません。
<文:宮下公美子>
*市町村、患者情報、地域で共有 在宅医療を推進(日本経済新聞2015年3月26日)