認知症の早期診断、早期対応が求められている中、受診の遅れが課題となっていた若年性認知症。若年性認知症対応では先駆的存在である、順天堂大学医学部附属順天堂医院(東京都文京区)で、2015年6月から、週末に2泊3日の短期入院によって検査を受けられることになりました(*1)。
これまで若年認知症の診断には受診申し込み後、何回も受診し、結果が出るまでに4,5か月かかっていました。しかし、この入院検査によってMRIやSPECTなどの脳の画像診断や認知機能検査など、一気に10種類以上の検査を実施。1週間程度で結果がわかるようになるとのこと。これなら忙しいビジネスマンでも、受診できそうです。
若年性認知症は、受診の遅れも課題でしたが、実はもっと大きな課題は診断後の対応。「早期対応、早期絶望」とならないよう、どう支援していくかが大切です。
しかし、これまで若年性認知症の人に対応できるデイサービスは多くありませんでした。若くて体力もある若年性認知症の人が、高齢者と同じ活動量で過ごすのはなかなか難しいからです。かといって、別のプログラムを組み、別々にプログラムを運営していくのでは職員の負担が大きくなります。
認知症の人の力を信じて見守るスタッフ
「まだ働いていたい」――そんな意欲のある若年性認知症の人などに仕事ができる場を提供しているのが、認知症専門クリニックである藤本クリニック(滋賀県守山市)併設の「仕事の場」(*2)。若年性認知症と診断され、仕事を辞めたものの、まだ介護保険サービスを利用するほどではない人や、障害のある人達が週1回通ってきて、おもちゃの部品加工などの内職仕事を行っています。
引き受けた仕事はメンバーが責任を持って納期までに完成させており、運営スタッフがやり残しや不具合をフォローすることはありません。メンバーには仕事の対価として、月約6000円が支払われています。
藤本クリニックには「仕事の場」のほか、デイサービス「もの忘れカフェ」もあります。こちらは、認知症はあるけれど、自分の意思で活動していきたいという人が多く利用しているデイサービス。このデイサービスは開設に当たり、まったく空っぽの一室を用意。テーブルやイスを並べることから、冷蔵庫、急須など必要なものを別のユニットのデイから借りてくる交渉、デイでの活動の内容まで、すべて利用者同士で相談して決めてもらうという、実にユニークな方法でスタートしました。ケアスタッフは認知症の人の持つ力を信じて、口を出さず、手も出さず、見守るのが仕事なのです。
東京都町田市にも、働きたい、社会とつながっていたいという思いを持った認知症の人が集まるデイサービスがあります。次世代型デイサービス「DAYS BLG!」。通ってきているメンバーは、50歳代から90歳代まで、要介護度も1から4までと幅があるため、やりたいこと、できること、できないことにも違いがあります。たとえば、事業所のとなりにある自動車販売会社での洗車の仕事、昼食の買い出し、近くの学童保育での子どもたちとの交流など。これらの活動の中から、自分がやりたいことを選んで1日を過ごします。
社会とつながりたいのは若年性の人だけではない
約462万人いると言われる65歳以上の認知症の人に比べて、若年性認知症の人は約4万人と言われています。全国に点在する若年性認知症の人を、専門に支援する場を用意するのは難しく、これまで支援ノウハウもなかなか蓄積されませんでした。しかし、前述の「仕事の場」「もの忘れカフェ」「DAYS BLG!」のような場が少しずつ増え、どのように支援すればよいかが少しずつわかってきたのです。
また、「仕事をしたい」「社会とつながりたい」「人の役に立ちたい」という意欲を持っている人は、若年性認知症の人だけではないことも明らかになってきました。
つまり、高齢者対象のデイサービスに若年性認知症の人を当てはめるのではなく、社会とつながれる支援の場を用意し、年齢にかかわらず通いたい人に来てもらえばよかったのです。
藤本クリニックで研修を受けたスタッフが、愛知県や長野県で同じような取り組みを始めるなど、働く意欲のある認知症の人を支援する場は、全国に広まっています。ただお世話をするだけではない認知症の人の支援のあり方が、これからどんどん開発されていくことでしょう。
<文:宮下公美子>
*1 若年性認知症、週末検査 順天堂医院、2泊入院で早期発見(毎日新聞 2015年5月12日)
*2 若年性認知症でも働きたい(毎日新聞 2015年5月1日)
参考文献: 「もの忘れカフェの作り方」藤本クリニック 奥村典子・藤本直規著 徳間書店刊