ここ数年、「地域包括ケアシステムの構築」という言葉がよく聞かれるようになりました。
介護が必要になってもできるだけ長く地域で暮らし続けるための仕組み、ということはわかるものの、具体的にどういうものなのか、そして、なぜ最近これほど取りざたされているのかよくわからない…という方も、実は多いのではないでしょうか。
今回は、地域包括ケアについて、コンパクトにまとめてみました。
「地域包括ケア」という言葉はどこから出てきたの?
2003年に、厚生労働省老健局長の私的研究会「高齢者介護研究会」(座長・堀田力氏)がまとめた「2015年の高齢者介護」の中で使われた表現です。
ちなみに2015年は、団塊の世代が全員65歳、つまり高齢者になる年。地域包括ケアは、この報告書の中では「介護以外の問題にも対処しながら介護サービスを提供する、保健・福祉・医療の専門職やボランティアなど地域の様々な資源を統合した包括的なケア」と説明されていました。
最近よく聞くようになったけれど?
「2015年の高齢者介護」の発表以降、2008年までの5年間、地域包括ケアシステムについての話題はほとんどありませんでした。よく耳にするようになったのは、2008年に有識者による「地域包括ケア研究会」(座長・田中滋氏)が招集されてからです。
2009年5月には「地域包括ケア研究会報告書」がまとめられ、それを受けてその後も2回、研究会が招集され、2010年3月、2014年3月に報告書がまとめられています。
この研究会の招集・報告書の発表から一気に、「これからの高齢者介護は地域包括ケアシステムで」というムードが高められていきました。
なぜ地域包括ケアが必要なの?
介護保険制度が始まったころは、1人の高齢者を現役世代4人で支えていました。
しかし、団塊の世代がすべて後期高齢者になる2025年には、1人の高齢者を2人の現役世代で支えなくてはなりません。2025年には介護職員が30万人不足するという推計も出ています。
倍増する負担、足りない介護職といった問題を少しでも軽減していくには、介護保険制度を効率的・効果的に運営していくことが必要です。そこで、施設や病院に頼らず地域で元気に暮らし、介護が必要になっても地域のサービスや支えあいを利用しながら地域で暮らし続けるための仕組み、「地域包括ケアシステム」が必要になったのです。
地域包括ケアシステムはどうやってつくるの?
「システム」と聞くと、何か決まった形があるように思えますよね。しかし、地域包括ケアシステムに、「この通りに作ればいい」という唯一絶対の「正解」はありません。地域によって必要とされているものも、地域がすでに持っているものも、地域としての強みも弱みも、それぞれ違うからです。
国は様々なモデルケースを示していますが、そのケースを参考にして、「わが町」に合った地域包括ケアシステムを作ることを求めています。作るのは、行政、介護職、医療職、そしてその地域の住民。皆で知恵を出し合い、協力して作っていくものなのです。地域全体でそうした意識を共有することが、地域包括ケアシステムづくりの第一歩と言えるかもしれません。
地域包括ケアは何を目指しているの?
まず、地域の住民ができるだけ健康を保ち、自立した生活を送れるようにしていく支援すること。行政は健康を維持するための教室開催等の支援体制を整え、事業者はそれを運営。住民自身も心身の健康を保つよう自発的な努力が必要です。そして、もし支援が必要になったら、公的な支援に加え、地域での助け合いも活用しながらできるだけ地域での生活を支えていくこと。そのためには、介護保険、医療保険等による公的サービスを整備すると同時に、地域で支え合える人間関係や、ボランティア組織、住民相互扶助組織などを作り育てていくことが必要です。
こうした一連の仕組みが地域包括システム。その目標は、高齢者だけでなく障がい者や子育て家庭、生活困窮者など、さまざまな支援ニーズを持つ人を含む地域住民が、互いに支え合えるようにしていくことだといえます。
いかがですか?
地域包括ケアシステムは、誰かが作ってくれるものではないことをご理解いただけたでしょうか。地方分権の時代と言われる今、介護職も住民も一緒になって、地域づくりに取り組む意識を持つことが大切なのです。
<文:宮下公美子>