厚生労働省の2017年度予算の「概算要求」は、過去最大の31.1兆円(*)と発表されました。概算要求とは、各省庁内で取りまとめた「来年度はこれぐらいの予算が必要」という金額を、財務省に提出することです。
国家予算、概算要求など興味ないなあ、という人もいるかもしれません。しかし、社会保障関係予算がどうなるかは、実は介護の仕事にもいろいろ関係してきます。何も知らないでいると、「そんなことになっていたとは!」と驚いてしまうかも。社会保障関係費がどう扱われているかについて、ざっくりと把握しておきましょう。
国の政策に使う予算の半分は社会保障関係費
冒頭に書いたように、2017年度予算について、厚生労働省は31.1兆円を概算要求しました。この金額をベースにして、ここから、国の財布を握る財務省と各省庁の予算を巡る綱引きが始まるのです。
前年の2016年度予算は、厚生労働省全体で30兆3110億円。このうち、社会保障関係費は約29兆8600億円に上ります。これは国家予算全体の約3分の1。国債の利払いなどの「国債費」や自治体に渡す「地方交付税交付金」を除いた、政策に使われる「一般歳出」の半分強を占めています。
2016年度のその他の一般歳出予算は、公共事業が約6兆円、文教・科学振興が約5兆3000億円、防衛費は約5兆円。こうして見ると、社会保障にどれほどお金を使っているかがよく分かります。
▼2016年度一般会計歳出
*財務省「「経済・財政再生計画」の着実な実施(社会保障)」平成28年
高齢化が進んでいくと、年金受給者はふえますし、医療費も介護費もかさみます。何もしなくても社会保障費はどんどん膨らんでいきます。しかし、膨らむままに任せていては、国家財政が成り立ちません。
2017年度予算の概算要求で、厚生労働省は前年より6400億円程度の社会保障関係費の増加を見込んでいます。しかし、財務省が示した社会保障関係費の自然増は5000億円程度。1400億円分を削らなくてはならない見込みです。
自己負担増で、サービスの使用を控える利用者への対応を
そこで財務省から示されているのが、介護分野では、2割負担の対象者を増やすという案、自己負担の月額上限を引き上げる案、軽度要介護者向けの訪問介護の生活援助、福祉用具購入・レンタルなどを介護保険からはずすという案など。
医療分野でも、後期高齢者の自己負担の引き上げや、一定以上所得がある高齢者の月額の負担上限を引き上げる案が示されています。
高齢者には、ダブルパンチで負担増となってくる可能性が大きいのです。
そうなると、サービス利用を減らそうと考える高齢者が出てくる恐れがあります。デイサービスやデイケアに通ったり、訪問リハビリを受けたりして、せっかく心身機能が回復しても、介護サービスで提供されていた運動の機会などが失われると、あっという間に機能が低下します。
そうならないように、介護職は、時には無償や定額で利用できる介護保険外の運動や社会参加の機会の確保を、考えていく必要があるのではないでしょうか。それは、必ずしも報酬に結びつく仕事ではないかもしれません。しかし、関わっている利用者の心身機能の維持向上のため、適切な支援や情報の提供をしていくのは介護の専門職として大切なこと。
そのためにも、制度改正につながる国家予算の動きにも、関心を持っていたいものです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*医療・介護で1400億円圧縮 来年度予算案 社会保障費伸び、5000億円に抑制狙う 個人負担増を検討 (2016年8月27日 日本経済新聞)