介護事業所の課題は「事務処理の負担軽減」
2019年5月、社会保障審議会介護保険部会で、
介護分野の文書にかかわる負担軽減についてのワーキング・グループ(WG)の設置が決まりました。
介護保険がスタートして20年。制度変更を重ね、様々な加算も創設され、作成を求められる文書は多様化・複雑化するばかり。
事務処理を担う職員を置く余裕がない小規模事業所は、管理者の負担が増大し続けていました。
介護分野の書類削減については、2018年6月に内閣府が示した「未来投資戦略2018」でも、
「文書量の実効的な半減を実現する」
「作成文書の見直し、(中略)ICT利活用や、非専門職の活用等を含めた業務効率化・生産性向上に係るガイドラインを本年度中に作成、普及(後略)」
などが、取り組むべき施策として掲げられていました。
いわば、内閣府から厚生労働省が名指しで改革を求められた格好。
2019年6月以降、2~3回のワーキング・グループ開催を経て、12月には当面の方針について、中間とりまとめを発表するというスケジュールが示されました。
ローカルルールで、介護保険に関する文書は複雑化・多様化
介護分野の事務負担に関しては、2019年2月に自民党の厚生労働部会長の小泉進次郎議員が、自治体によって異なる不透明なローカルルールの多さを指摘。
この部会のプロジェクトチームが書類の統一を厚生労働省に求めたほか、自民党としても5月に発表した「社会保障改革ビジョン」で、書類の削減に加えてローカルルールの撤廃を提言していました。
地域保険である介護保険は、地域の実情に応じ、保険者(自治体等)ごとに保険を運用します。
そういう意味では、ローカルルールはあって当然であり、ローカルルールが利用者のメリットになっている場合もあります。
しかし、複数の保険者(自治体等)にまたがってサービス提供する介護事業者にとっては、多すぎるローカルルールは煩雑に感じることが多いもの。
管轄する保険者(自治体等)に合わせて、一つのサービスごとに微妙に異なる書式の書類を何枚も作成するのは、非常に非効率的だと言えます。
書類の多様化と複雑化は、長年、介護事業者と保険者(自治体等)の双方を悩ませ続けてきました。しかし、ようやく国が動き、その整理が進むことが期待されます。
検討事項として挙げられているのは、以下のとおりです。
(1) 指定申請、報酬請求、指導監査に関する文書の共通化・簡素化
(2) 自治体によって取り扱いに差があって、事業者・保険者の負担が大きい案件の共通化・簡素化
事務負担の軽減で、本業の「介護」に注力し収益アップを!
書類の整理とともに、もう一つ、介護業界全体で考えたいのは、
介護関係事務のアウトソーシングです。
小規模事業所の多い介護業界では、経理や人事、総務などの間接業務を担当する職員を雇用する余裕がない事業所が少なくありません。
しかし、例えば地域の複数の介護事業所で協同組合等を組織し、間接業務を担う職員を共同で雇用。事業所の業務から間接業務を切り離して処理する仕組みを作ってはどうでしょうか。
1事業所では人件費を負担しきれなくても、複数の事業所で共同雇用すれば、事務担当職員を置くことができるのではないでしょうか。
間接業務を、定年退職後のシニアに任せるというアイデアもあります。経理や人事などのスキルを持ち、まだまだ働きたいというシニアはたくさんいます。
そうしたスキルと働く意欲を持つシニアを集めて研修を行い、介護事業所での就労を促していくモデル事業に取り組んでいる団体もあります。
また、
ICTの活用も重要です。
自社で訪問介護の勤務シフトから介護保険の請求まで、一括して行えるソフトを開発し、事務負担を大幅に軽減している介護事業者もあります。
事務負担の軽減は、収益アップにもつながります。
書類を削減すること。
スキルのある人材を活用すること。
ICTの活用で省力化すること。
様々な方法で事務負担を軽減し、本業である介護実務に注力して収益をアップできる体制を整えていきたいものです。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>
*介護分野の文書に係る負担軽減に関するワーキング・グループ(仮称)の設置について(2019年5月23日 厚生労働省 社会保障審議会介護保険部会(第77回) 資料2)