10月31日はハロウィン。もともとは、悪霊を追い出す宗教的な行事だったそうですが、日本では“仮装を楽しむ日”として定着しています。ハロウィンのイベント期間中は、仮装で楽しめるテーマパークもありますし、一般の人が参加して仮装でのパレードをするところもあるようです。
新聞小説では、ハロウィンの仮装を楽しむ老人ホームも
日本でのハロウィンは、一般的に定着してからまだ10年程度。高齢者の中にはハロウィンを知らないという方も多いと思います。ただ、仮装は、「非日常」を演出できる格好のイベント。高級老人ホームを舞台にして話題になっている、林真理子さんの新聞小説「我らがパラダイス」では、入居者が競うように趣向を凝らした仮装をするシーンが描かれています。ハロウィンのことなど詳しくわからなくても、イベントが楽しめればいいのです。仮装を楽しむ若者たちにしても、ハロウィンの詳しい由来など知らない人の方が多いのですから。
老人ホームの入居者からは、「することがない」「変化がない」「時間をもてあます」という声をよく聞きます。何でも世話をしてもらえるというのは楽なようでいて、その立場になってみるとつらいものなのかもしれません。認知症のグループホームの前身である「宅老所」が生まれたのも、高齢者が一方的に世話を受けるだけというケア体制への疑問から。設備が整っていない古民家などですごしていると、認知症があっても高齢者は自然と身体が動きます。
古民家の環境の中では、若い介護職より高齢者の方が機転を利かせてできることもあります。高齢者と介護職が一緒に買い物に行き、一緒に掃除をし、一緒に食事を作る。そうした“生活”の中には、認知症を持つ人が若い介護職に教えてあげられることがたくさんあります。一方的に世話になるのではなく、教えてあげたり助けてもらったりという、持ちつ持たれつの関係になりやすいことが、宅老所の良さでもありました。残念ながら、現在の認知症グループホームは制度化されて、そうした良さが薄れてしまったのですが…。
「非日常」を取り込むことで、脳や身体を刺激する
「変化がない」つらさを解消する方法に目を向けると、女性の場合、最近徐々に注目されるようになっているのが「化粧療法」です。本人に見えるように顔を写せる鏡を置き、メイクの専門家などが化粧をするのです。下地で肌を整え、ファンデーションを付け、眉を引き、口紅を塗る。かつては毎日のようにしていた化粧を、高齢の女性の多くは次第にしなくなっています。しかし、久しぶりに化粧をし、徐々に華やいでいく自分を鏡で見ることで、気持ちも明るくなっていきます。化粧をする前とあとでは、表情の豊かさが全く違う女性もいるそうです。
一方、男性の場合は、比較的好まれるのが対戦ゲームや勝負事です。麻雀、将棋、囲碁などは定番ですが、本格的なカジノ機材を介護施設に持ち込んでルーレットやカードゲームなどを行う、人気のデイサービスなどもあります。自治体によっては、カジノ目的のデイサービスを禁止したところもありますが、自立支援につながるプログラムになっていれば問題はありません。勝負事は適度な緊張感が得られ、脳が活性化します。普段、車いすに座ったきりの男性が、ルーレットのチップを置こうと、思わず立ち上がる。両手が上がらないと嘆いていた男性が、賭けに勝って思わずバンザイする。そんな姿が見られることもあります。
決まり切った刺激のない日常が続けば、高齢者に限らず、誰でも変化がほしくなります。ハロウィンなんてと思わず、「非日常」を取り込み、脳や身体を刺激する一つのツールとして、高齢者と一緒に仮装を楽しむのもよいのではないでしょうか。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>