軽度要介護者の「生活援助切り離し」は見送りに
3年に1度行われる介護保険制度改正。2018年は、医療報酬との同時改定なので、大規模改正になる、と言われていました。最も大きな改正ポイントとしてあげられていたのは、要介護1、2の軽度要介護者に対する訪問介護の「生活援助」サービスを、介護保険から切り離すという案。生活援助とは、調理や掃除、買い物などを指しています。
しかし、2016年11月末に示された制度改正の素案に、軽度要介護者の生活援助の切り離しは含まれていませんでした(*)。これは、先に介護保険から切り離されることとなった要支援者向けの訪問介護と通所介護が、国の思惑通りに市町村サービスに移行していないためです。要支援者対象の訪問介護や通所介護から撤退した介護事業者も多く、サービスが不足している地域もあるといわれています。
ここでさらに、軽度要介護者の生活援助まで切り離したら、混乱がますますひどくなるのは明らかです。そのため、今回の改正で切り離すことは見送られました。また、生活援助サービスを軽視する国の姿勢に反発する声が多かったことも、影響したのかもしれません。結果、想定ほどの大きな改正にはならず、大規模改正は2021年に先送りされたような状況です。
生活援助は単なる家事代行ではない
訪問介護の生活援助サービスは、厚生労働省の通知によれば、「身体介護以外の訪問介護であって、掃除、洗濯、調理などの日常生活の援助(そのために必要な一連の行為を含む)であり、利用者が単身、家族が障害・疾病などのため、本人や家族が家事を行うことが困難な場合に行われるものをいう」とのこと。「本人の代行的なサービスとして位置づけることができる」とも書かれています。
本人が自分でできない日常生活行為を代行する、という書き方ですから、家政婦が担う家事代行サービスとの違いがわかりにくいですよね。しかしヘルパーは、実際には、単に掃除などの生活行為を代行しているだけではありません。掃除をしながら生活状況を把握したり、調理の合間に話をして本人の心身の状態把握に努めたり、本来、専門性を持って本人の心身の状態や生活についてアセスメント(評価)しながら援助を行っているはずです。適切にアセスメントすることが、より適切な支援につながっていきます。ここに家政婦にはない、ヘルパーの専門性があります。簡単に、家事代行サービスで代替できるものではないのです。
介護の仕事の持つ力をどう社会に認めさせるか
さらに言えば、訪問介護では、かつては本人が持っている能力を引き出す支援も意識されていました。しかし、改正のたびに提供時間が削られ、短時間での効率的なサービス提供が求められるようになっています。そのため、本人の能力を活用したり引き出したりする余裕がなくなり、ひたすら、決められた作業をこなす、というサービス提供になっている部分もあるように思います。それが、家事代行のようにとらえられる一因と言えるかもしれません。
軽度要介護者の生活援助の切り離しは、今回の制度改正では見送られました。けれども、財源が乏しい介護保険において、これは今後も重要な検討課題であり続けるはずです。介護職、介護事業者は、生活援助サービスが在宅限界点を引き上げる上で、本当に不可欠なサービスであると考えるなら、その重要性をもっと社会に対して訴えていくべきです。
それも、ただ「切り離しては在宅生活を維持できない」と訴えるのではなく、重度化を防ぐ上でどれだけ生活援助サービスが貢献しているかを、目に見えるエビデンスを用意して伝えていくことが必要です。そうした成果を示していくのは、個別性の高い介護の仕事ではとても難しいことです。それでも、介護業界は、どうすれば自分たちの仕事の持つ力を、国、そして社会に認めさせることができるかを、真剣に考えていかなくてはなりません。それを考え、実践していかない限り、一方的に切り下げられていくサービスと報酬を甘んじて受け入れる現状から抜け出せないのではないでしょうか。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
* 介護負担増、募る不安 改正素案、「現役並み」狙い撃ち (毎日新聞2016年11月26日)
<参考>
老計第10号 訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について