無料低額宿泊所の入所者は、65歳未満が約6割
生活困窮者が一時的に滞在する施設として運営されている「無料低額宿泊所」、通称「無低」。
地域生活への移行に向けた支援が行われ、滞在期間は、原則として東京都では1年間、千葉県では3ヶ月間とされています。
にもかかわらず長期滞在する高齢者が増え、東京都と千葉県の無低では、年間150人も亡くなっていることが明らかになりました(*1)。
無低は、社会福祉法に規定されている届け出制の社会福祉事業です。
しかし、生活困窮者を支援するように見せかけて搾取する、いわゆる「貧困ビジネス」の温床になっているとも言われています。
今回は、2015年に実施された厚生労働省による調査(*2)等をもとに、無低とはどういう施設なのかを紹介します。
この調査は、2015年6月に、無低として届け出を出している施設を対象に実施されたものです。
この時点で把握されていた無低の数は全国で537施設。
意外に少ない印象です。
無低が最も多いのは、東京都の161施設。
次いで神奈川県の52施設です。
人口の多い都道府県で多く運営されていて、1施設もない県も29あります。
運営主体はNPO法人が中心。
8割弱を占めています。
無低の施設長は、「1.社会福祉事業の経験が2年以上ある人」が約6割。
「2.社会福祉主事相当」が約2割。
1、2と同等の能力を有している人が約2割です。
社会福祉士など、社会福祉援助について専門的に学んでいる人は多くないと読み取れます。
職員数は、総数が2045人。
人員配置の基準はありませんが、9割近い施設で、入所者の自立を支援する職員が配置されています。
職員のサポートで、地域生活に移行できるケースもありますが、記事にあるように十分な医療や介護を受けられないまま、無低で亡くなる人もいます。
全537施設を合わせた定員は、1万8201人。
2015年6月時点での入所者数は1万5600人で、その約半数が入所前は路上生活者。
約9割が被保護者です。
また、6割強が福祉事務所からの紹介で入所しています。
全入居者の年齢を見ると、40歳未満が約1割、40~65歳未満が約5割。
65歳以上が4割弱となっています。
これは被保護者もほぼ同じ。
もっと高齢者が多いかと思っていましたが、そうではないのですね。
被保護者のうち介護保険サービスを利用している人は2.5%にすぎません。
生活保護を受給しても、使えるお金は月2~3万円
体は元気だけれど、何らかの事情で家や仕事を失い、路上生活をしている人が、福祉事務所からの紹介で無低に入り、生活保護を受給している、ということでしょうか。
生活保護法に基づく施設としては、救護施設や更生施設などがありますが、今はどれも新規開設は少なく、受け入れ人数には限りがあります。
路上生活者に生活保護を支給し、生活を立て直してもらうには、無低が必要だということかもしれません。
しかし1年以内に退所している人は1/3程度。
4年以上、無低で暮らす人も1/3いるなど、自立支援がうまく機能していない実態が見られます。
居室総数は1万5341室。
9割近くが個室です。
部屋の広さは、国の基準では7.43㎡(4畳半)以上。
しかし、個室の無低の4割弱が7.43㎡未満です。
布団を敷いたらそれでスペースが埋まる、3.3(2畳)~4.95㎡(3畳)未満の個室の無低も約8%あります。
個室以外になると、回答された中で最も多い広さは、3.3(2畳)~4.95㎡(3畳)未満。
記事で紹介されていた無低も、5~6畳の部屋をカーテンで仕切って2人部屋にしていましたが、そんなイメージでしょうか。
プライバシーを守ることが難しい生活ですね。
そこで4年以上も暮らすのは相当なストレスです。
宿泊料と生活保護の住宅扶助の金額との関係を見てみると、8割弱が、住宅扶助と同額の設定になっています。
その他、食費として平均月約2万8000円、その他の費用として約1万5000円。
生活保護を受けても、利用料を支払うと、入所者が使えるお金は月3万円未満しかないという無低が約8割弱に上ります。
以前、無低ではありませんが、無届けホームで暮らす何人かの元路上生活者の話を聞いたことがあります。
年齢が高かったこともあり、自立は困難で、ケアを受けながら3畳ほどの狭い個室で暮らしていました。
生活保護を受給しても、使えるお金が2万円ほどという生活でしたが、それでも路上生活よりはよほどいいと話していました。
雨露をしのげて、食事を食べられ、温かい寝床があり、誰かから襲われる心配もない。
それで十分だというのです。
しかし、1日3食、渡されたコンビニ弁当を食べ、3畳ほどの狭い部屋で暮らす生活は、果たして憲法で保障された「健康で文化的な生活」と言えるのだろうかと思ったものです。
無低も、一時的に滞在する施設としての最低限の機能しか持っていません。
そこで暮らし続けて、人生を終えることになるのでは、やはりあまりに寂しいように思います。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*1 無料低額宿泊所 年150人死亡…東京・千葉 滞在長期化 (毎日新聞2016年12月30日)
*2 無料低額宿泊事業を行う施設に関する調査結果について(厚生労働省 平成27年調査)