利用者の体調に大きな異変があったとき、救急車を呼ぶか呼ばないか、施設やデイサービスとして利用者ごとの対応を確認してありますか?
あるいはホームヘルパーとして、利用者の家を訪問したとき。家の中で倒れている姿を見つけたらどう対応するか、事業所でガイドラインを決めていますか?
利用者の延命意思確認は、利用開始時だけでは不十分
施設では、入所時に延命処置を希望するかどうか、本人や家族に確認するところが多いことと思います。
また、医師がターミナル期にあると診断した方への対応も、その時点で確認している施設、事業所は多いことでしょう。
しかし、比較的元気であるために、最初に確認したきり、その後、意思確認をする機会がないままになっている入所者、利用者はいませんか? そのままにしていると、いざというときに困ってしまうことがあります。
たとえば、入所時に60代だった入所者が、90歳を過ぎて突然倒れ、脳梗塞が疑われる状態のとき。
入所時、本人も家族も延命を希望していたとして、20、30年後も同じ思いのままとは限りません。それはやはり改めて確認が必要です。
異変があったとき、すぐに家族に確認が取れれば問題はありません。しかし、連絡が取れない場合、職員が一時的に判断を担うことになります。
救急車を呼べば、救急隊員から延命を希望するかどうかを聞かれます。それによって、搬送先が違ってくる場合があるからです。
ここで延命を希望すると、重篤な場合は、最も高度な救命救急を行う3次救急病院に搬送されます。
3次救急病院は、できうる限りの治療を行い、命を救う医療機関です。ここに搬送されてから、「人工呼吸器は付けないで」「胃ろうにはしません」などというと、病院側は困ってしまいます。
3次救急に搬送することを承諾したのに、命を救うための処置をしないでほしいと求めるのは、ある意味、ルール違反です。
それなら、3次救急に搬送すると言われた時点で、断る必要があったのです。
本人も家族も望まない延命を避けるために
一方、救急搬送されたと聞いて、あわてて駆けつけた家族も困惑してしまいます。
病院に着くなり、医師から「人工呼吸器を付けますか? 付けないと命を保てません」などと言われたら、つい「付けてください」と言ってしまうこともあるといいます。
しかし人工呼吸器は一度付けると、呼吸が回復しない限りはずすことはできません。その結果、意識がないまま、ただ生命が維持されているだけの状態となってしまうこともあります。
それを知った家族から「なぜ3次救急に搬送したのか」と、施設、事業者が責められることもあると聞きます。
そもそも、家族から責められる以前に、3次救急への搬送は、そのときの本人の意思に沿った対応であったのかどうかが問われます。
医療界でも、本人が望まない心肺蘇生はやめるべきという声が上がっています。
「日本臨床救急医学会」が、書面で心肺停止後の蘇生処置を望まないという意思表示をしている場合は、救急隊員がかかりつけ医に直接確認した上で、蘇生処置を中止するという提言を発表しました(*)。
介護の現場でも、万一の場合に備えて、定期的に延命についての意思を本人、家族に確認しておく必要があります。
そして、本人も、家族も希望しない、不必要な延命が行われないようしていきたいものです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*終末期患者の救急対応 望まない蘇生「中止を」(日本経済新聞 2017年4月8日)