新卒の訪問看護師の養成が増えている
介護職との連携も多い訪問看護師。まだまだ人数が不足していて、養成が待たれています。
一人で患者のもとを訪問する訪問看護師を務めるには、一定程度、病院での臨床経験を積んだあとでないと難しいという声があります。そんな中で、新卒者を採用し、病院勤務を経ずに最初から訪問看護ステーションで養成しようという動きが少しずつ広まっています(*)。
新卒の訪問看護師養成の背景には、「病院から在宅へ」という国の施策があります。在宅での療養を支える訪問看護師の需要が高まっているからです。
また、記事の中では、新卒者が加わることで、世代の多様化により組織としての安定が図れるという意見も紹介されています。
病院と在宅では求められるケアが違うことから、新卒時から在宅で養成することの意義を指摘する意見もありました。
一方で、新卒者を育成するには、訪問看護ステーションにある程度の「体力」が必要です。新卒者を採用しても、最初から1人で訪問させることはできず、一定期間は研修、同行訪問などを行っていく必要があります。
利益を生み出すことができない職員を抱えて運営していくのは、ステーションにとっては大きな負担です。一定規模と安定した収益を上げているステーションでなければ、新卒者を採用して育成するのは難しいかもしれません。
新卒のヘルパーは利用者に育てられている?
介護分野でも、ホームヘルパーに新卒者を採用して育成している企業があります。基本的な研修のあと、数週間の同行訪問を行います。
指導者が1人での訪問が可能と判断すると、研修期間が終わり、一人で訪問介護を行うのです。
一般に、個人の家を訪問して行う仕事には、適切な状況判断、臨機応変さ、柔軟な対応力などが求められます。
それは、人生経験を積んだ年配者に向いた仕事であり、若い新卒者には荷が重いという声もあります。確かに、そうした側面もあるかもしれません。
しかし、実際には、若い新卒のヘルパーは、利用者に孫のようにかわいがられ、おおむね好意的に受け入れられると聞きました。多少手際が悪くても、利用者の要望や指示に誠実に耳を傾け、懸命に対応していこうという姿勢が好まれるというのです。
新卒ヘルパーは、多時には失敗をしながらも、利用者に育てられていくのでしょう。若いヘルパーと接し、育てていくことは、もしかしたら利用者にとって楽しみとなるかもしれません。
ベテランも新卒者から学ぶことがあるのかも
一方、新卒の訪問看護師の場合、新卒ヘルパーとは少し違った難しさがあります。
訪問看護師は医師の指示のもと、点滴、バルーンカテーテル(尿の管)の交換、ストマ(人工肛門)の処置など、体に影響を及ぼす医療処置を行う必要があるからです。
たとえば点滴の針を入れるにも、ベテランの看護師が行うのと新卒の看護師が行うのでは、利用者が受ける心身の負担には違いがあります。
「孫のようにかわいい」と思っても、痛い思いをさせられては、利用者は受け入れがたいかもしれません。
病院での臨床経験が必要と見なされてきたのは、そうした側面があるからだと思います。
それでも新卒を採用し、育成している訪問看護ステーションの管理者に話を聞くと、新卒者はいい、と言います。まっさらな状態で、在宅で求められていることをどんどん吸収していくのを見ていると、将来が楽しみだというのです。
手技については、不慣れで利用者に負担をかけるのは一時のこと。経験を重ねていけば身についていくものだからです。
むしろ、新卒者が在宅の現場を経験して漏らす素朴な疑問に、ベテランがハッとさせられることもあるのかもしれません。
新卒のヘルパーもそうかもしれませんね。まっさらな状態からスタートする人たちと共に働くことは、ベテランにとっても学ぶものがありそうです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*訪問看護師 新卒採用 団塊高齢化で需要増 世代多様化に意義(毎日新聞 2017年8月16日)