地域包括ケアは、居宅サービスだけが行うもの?
団塊の世代が全員、後期高齢者になる2025年に向けて、高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けるための「地域包括ケアシステム」の構築が進められています。
「地域包括ケアシステム」では在宅ケアの充実が課題となっているためか、施設に勤務している介護職の中には、地域包括ケアへの関心が薄い方も見られます。
地域包括ケアは、居宅サービスと地域密着型サービスの話で、施設サービスには関係ない、と思っているのかもしれません。
しかし、施設であっても、地域の一員であることに変わりはありません。大規模な施設だからこそできる、高齢者が地域で暮らし続けるための支援に取り組んでいる施設もあります。
施設だからこそできる、地域住民の支え方とは
たとえば、ある施設は、在宅生活で状態が悪化し、在宅介護が困難になってきた高齢者を「ベッドシェア」の形で一時的に受け入れています(※)。
施設でリハビリテーションを行って状態を改善し、再び在宅復帰させる取り組みを行っているのです。
※ あらかじめ入所期間を定めている複数人で、1つのベッドを交替で利用する「在宅・入所相互利用加算」の算定に該当する受け入れ方法
夜間、よく眠れなかったなど介護の疲労が蓄積していた家族も、レスパイト(介護からの解放と休息)を取ることにより、リフレッシュすることができます。
高齢者が一時的に入所している期間、家族は希望により施設に通い、実施しているリハビリテーションや、食事介助の方法など、適切な介護の方法を学ぶこともできます。
家では食事をとることができなかった高齢者が施設ではしっかり食べていることを知り、調理方法や食事介助の方法を身につけたいと考える家族もいます。
栄養士やリハビリスタッフなど、さまざまな専門職が勤務する施設だからこそ、こうした関わり方で、在宅生活の継続をサポートできるのです。
また、事務職員も含めた施設の全職員に、担当の地域住民を割り当て、見守り、声かけを行っている施設もあります。
この施設では、交通の便が悪く、思うように買い物に行けないという地域住民の声を聞き、定期的にショッピングセンターにバスで無料送迎する取り組みを行っています。
この買い物バスの運行の際、住民に声をかけるのは担当している各職員です。買い物バスを利用する予定の人が来なければ、担当職員がその住民に電話をし、つながらなければ直接その家まで確認に行きます。
見守り、気遣い、声をかける。そんなふうに、自分たちを家族のように大切にしてくれる施設が近くにあれば、高齢者も家族介護者も安心して暮らせます。もし、在宅生活に限界が来ても、日頃からそれだけの関わりを持っている施設ならスムーズに入所できそうです。
さまざまなスタイルでつくる、介護施設と地域住民の連携
このほかにも、日々、大勢の地域住民にボランティアとして施設内で活動してもらうことで、住民と一体となって運営している施設もあります。
掃除、草抜き、施設内で飼っている動物の世話、行事の時のサポートなど、ボランティアの仕事はさまざまです。施設開設以来、ボランティアで歌を披露しに来たり、散髪をしに来たりしている人もいます。
この施設の施設長は、ボランティアの力を借りたいなら、何でも自分たちだけでできる、やらなくてはいけない、とは思わないことだ、といいます。
「人手が足りなくて困ったなあ、誰か手伝ってくれないかなあ、とあえて言って回ります。そうすると、そんなに困っているなら手伝おうか、という人が出てきてくれるのです」とのこと。“甘え上手”になることで、地域の力を引き出しているのです。
この施設でボランティアをしている高齢の男性は、「こうして週何日かここでボランティア活動をしているのは、自分自身の介護予防にもなります」といいます。
施設にも地域住民にもメリットがある、win-winの関係。地域の人の力を必要とすることで、地域に必要とされる施設となり、より関係が深まっていくことにつながります。
地域包括ケア時代の介護施設には、さまざまなスタイルの、地域との連携方法があるのです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>