離職率の高さが課題の介護業界。「働きやすさ」認定による人材定着に期待
2017年度の訪問介護員(ホームヘルパー)と介護職員2職種合計の離職率は16.2%。相変わらず、主要産業の離職率14.9%を上回っています。
介護職の離職防止につながる施策が必要とされている中、厚生労働省は2019年度から、働きやすさを評価する介護事業所の認定制度を新たに始めることとなりました(*)。
評価結果を公表することで、学生や求職者が就職先選びの参考にすることをイメージしているようです。
介護事業所の評価としては、2002年に認知症グループホームの評価から始まった「第三者評価制度」があります。これは、外部機関による評価を受けて事業所の課題を把握し、サービスの質の向上に役立てることを目的としています。
また、結果がインターネット上の福祉・医療に関する総合情報提供サイト(WAM-NET)に公開されるため、介護サービスを利用しようとしている人が、適切な事業所選択をする際、参考にすることも期待されています。
しかし、第三者評価を受ける事業所はあまり増えていません。
評価を受けた事業所(受審事業所)数は、2011年度で1229事業所、2016年度で1337事業所でした。最も受審率が高い特別養護老人ホームでも、受審事業所は特別養護老人ホーム全体のわずか6.36%です(2016年度)。
「第三者評価制度」の受審事業所が増えない理由の一つとして、評価を受ける費用の高さが挙げられます。
1事業所あたり20~30万円かかることを考えると、努力義務ではなかなか受審率は高まらないかもしれません。新しく始まる働きやすさ評価の認定制度が、同じ轍を踏まないといいのですが。
「第三者評価制度」の受審事業所が増えないもう一つの理由は、非常に手間がかかることです。
第三者評価を受けるには、外部機関の評価を受ける以前に、「理念、基本方針が明文化され周知が図られている」「総合的な人事管理を行っている」など60以上の項目について、事業所内で自己評価を行います。
これは経営層と全職員参加で行うものとされています。シフト勤務の職場などでは、全員参加での評価を行うのは、かなりの努力が必要です。働きやすさ評価の認定制度では、ぜひとも手間がかからないやり方を取ってほしいものです。
介護職、利用者、家族…さまざまな人が参考にできる公開方法を
ところで、介護サービスに関する情報の公表という面では、2006年にスタートした「介護サービス情報公表制度」もあります。
これは、介護サービスをこれから利用しようという人が介護事業所を選択する際、インターネット上で事業所情報の比較検討をできるようにしたものです。各事業所が都道府県に報告し、都道府県が報告された情報を審査。その後、都道府県が事業所情報を掲載するという仕組みになっています。
しかし、一般市民への告知が十分ではないこともあり、あまり利用されていないことが以前から指摘されています。
「介護サービス情報公表制度」は、そもそも、サイトが使いにくいことが大きな課題です。
たとえば、公表情報の中には、サービスを利用できるかどうかを示した「受け入れ可能情報」があります。利用者にとっては、関心の高い情報だと思いますが、この「受け入れ可能情報」がどこにあるのか、筆者も見つけるのに時間がかかりました。パソコンを使い慣れていない高齢の利用者やその家族であれば、探すのを諦めてしまいそうです。
また、この情報の最終更新日を見ると、1年近く前という事業所も少なくありません。受け入れ可能かどうかが1年前の情報では、役に立ちません。インターネットを使い慣れた人であれば、最終更新日を見て、情報の更新の遅さに、見る意欲を失うかもしれません。
こうしたことも、新しい働きやすさ評価認定制度では、課題になりそうです。手間をかけて認定を受けても、見てもらえないのでは意味がありません。
情報公表制度も、情報の見せ方の改善を検討し、システムのリニューアルが検討されています。働きやすさ評価認定制度についても、サイトに掲載する際には、見る側を意識した、使いやすいつくりにしてほしいものです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*介護事業所に認定制度 厚労省、働きやすさ評価(日本経済新聞 2018年8月22日)