福祉対応仮設住宅への転居を選択しなかった被災障害者
これからは「地域包括ケア」の時代。
住まいの30分圏内に、医療・介護・生活支援・介護予防など様々な支援をそろえ、地域住民の力も借りながらできるだけ長く、住み慣れた地域で暮らし続けられるようにしようという取り組みが進められています。
介護事業所、法人も、介護の面から地域を支えようと、地域への関わりを深めるところが増えてきました。
「地域包括ケア」の充実度、地域の持つ力が問われるのは、災害が起きたときです。
2016年の熊本地震では、重度の脳性マヒを持つ女性が、地域住民の力を借りながら地域での避難生活を続け、2018年秋に17歳で亡くなったという報道がありました(*)。
全壊した自宅では暮らせず、指定の避難所も使えない。それでも避難した先々で、この女性を知る住民たちが何とか暮らしやすいようにと環境を整えてくれたということです。
行政は、この女性の暮らしていた地域とは離れた場所に、バリアフリーの福祉対応仮設住宅を整備。そちらへの転居を促しました。
一方、女性とその家族は、地域で暮らし続けられるバリアフリー対応を行政に望んだそうです。しかしそれはかないませんでした。
この女性と家族は地域とのつながりを断たれる転居を選択せず、女性は最期まで地域で暮らし続けました。
行政は、障害者団体とも協議して、福祉対応仮設住宅の整備を決めたとのこと。記事では、行政に、この女性のように地域で暮らし続けたいという障害を持つ人に個々に対応する発想はなかったと報じています。もちろんマンパワーの問題など、行政には個々の希望への対応を困難にする様々な事情があったのでしょう。
特別養護老人ホームの入浴回数はなぜいまも週2回なのか
一方で、支援を提供する側の視点に立つと、時として「効率性」に目が行ってしまうことは否めません。
例えば、特別養護老人ホームなどの施設では、いまも入浴は週2回、入浴できる曜日や時間も決まっているところが多いようです。
週2回の入浴は、元々、厚生労働省が「介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」で、「指定介護老人福祉施設は、一週間に二回以上、適切な方法により、入所者を入浴させ、又は清しきしなければならない」と規定していたためです。入浴回数が週2回以上とされた根拠は不明です。
現在、この条文は、「入浴は、入所者の心身の状況や自立支援を踏まえて、適切な方法により実施するものとする。なお、入浴の実施に当たっては、事前に健康管理を行い、入浴することが困難な場合は、清しきを実施するなど入所者の清潔保持に努めるものとする」と改定。『週2回以上』という基準は削除されています。
改定前にしても、基準は『週2回以上』なのですから、毎日入浴できるようにしてもかまわないわけです。しかし、特別養護老人ホームのような大規模施設で、入所者が毎日入浴できるところはほとんど聞いたことがありません。
要介護者が望む暮らしに近づけるために、介護職ができることは何か
いま、みなさんは自宅でどれくらいの頻度で入浴しているでしょうか。週2回という方はどれぐらいいるでしょうか。
おそらく、毎日入浴する、あるいはシャワーを浴びるという方が多いと思います。
それなのに、なぜ、要介護になったら週2回しかお風呂には入れないのか?
身内が特別養護老人ホームに入所している介護家族からは、しばしばそうした疑問の声を聞きます。
介護職の方にも、介護家族と同じように考えたことがある方は多いのではないでしょうか。
もちろん、週2回の入浴で十分、という入所者も少なくないと思います。しかし、体が不自由になり、外出もままならない入所者の中には、入浴を食事と並ぶ楽しみの一つとしている人もいます。
その楽しみをかなえるためにできることはないだろうか。
そんな視点から考えてみると、たとえば、フロアごとに、希望があれば好きなときに好きなだけ入浴できる特別な1週間を設けるなど、いまの人員体制の中でも、少し工夫をすればできることがあるかもしれません。
熊本のケースに話を戻すと、福祉対応仮設住宅の整備によって、落ち着いた生活が可能になり喜んでいる、障害を持つ被災者もたくさんいることと思います。
一方で、亡くなった脳性マヒの女性のように、地域で暮らし続けたいという人もいます。
すべての望みをかなえることはできなくても、少しでもその人が望む暮らしに近づけるためにできることはないか。
支援する立場にある専門職や行政は、いつもそうした視点を持っていたいものです。
<文:社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター 宮下公美子>
*被災障害者 支えた地域 共生の発想、行政にも(日本経済新聞 2019年1月7日)