パソコンで顔を見ながら対話する「遠隔介護」
介護といえば、相対して行うもの。
そんなイメージをくつがえす「
遠隔介護」が、フィンランドで進んでいます(*)。
フィンランドの遠隔介護で行われているのは、パソコン画面で互いの顔を見て話す、服薬確認などが多いようです。
フィンランドの遠隔での服薬確認がうまく機能しているのは、IT機器などをうまく活用しているからです。
『タブレット端末が呼び出し音を鳴らして、服薬の時間を知らせる。時間になると薬剤ディスペンサーから音声が流れて1回分の薬が出てくる。』
こうした機器が、服薬をサポートします。
またおそらくは、そうした機器を使いこなせる程度の、認知機能が比較的保たれている方が、遠隔介護の対象なのだと思われます。
フィンランドでは、一人暮らしで認知症があっても、高齢者が自分自身で服薬スケジュールを守りやすい環境づくりが進められているのですね。
そしてさらに遠隔介護によって、本当に服薬できたかどうかを確認する仕組みがつくられている。だから一人暮らしを継続できるのですね。
記事によれば、遠隔介護の導入で、費用が9割削減できた自治体もあるそうです。
高齢者介護では「服薬管理」が課題になることも
確かに、正しく服薬できるようになるだけで、状態が一気に改善する例はあります。
状態が改善すれば、介護費用を削減できます。
しかし、服薬管理は、一人暮らしや老老介護の高齢者の場合、課題になりがちです。
医師が、本人に聞いても、高齢の家族に聞いても、どの程度服薬できているかわからないケースがあるのです。また、服薬漏れがあるのに、医師に言い出せず「ちゃんと飲んでいる」と答えてしまう人もいます。
服薬管理がきちんと行われていなければ、通院を継続していても、十分な治療効果は期待できません。それどころか、害を生じてしまうリスクもあります。
服薬できていないのに『できている』と患者が答えると、医師は、今の処方薬では効かないと判断し、より強い薬を処方する場合もあります。
そうすると、例えば、高血圧の人の血圧が下がりすぎたり、糖尿病の人が低血糖になったりする危険が生じます。
服薬管理は、とても大切なのです。
1日3回の訪問で、状態が改善するケースも
規則正しい服薬の実現のために介護職が介入する方法として、定期巡回・随時対応型訪問介護看護により、服薬の促しや確認のために定期訪問するという方法があります。
たとえば、昼夜逆転のような生活を送り、パジャマのまま1日をぼんやりと過ごしていた人。その状態から、この人は認知症が疑われていました。
しかし、ヘルパーが1日3回定期的に訪問することになり、状態は劇的に改善しました。
定期的な訪問を受けることで、
規則正しい生活をできるようになったこと。
ヘルパーの促しにより、
医師の指示通りにきちんと薬を服用できるようになったこと。
1日3回訪れるヘルパーとの
会話によって刺激を受けたこと。
この3つのおかげで、別人のようにしっかりとして生活を送れるようになったのです。
パソコン、スマホ…IT機器の普及が介護を変えるかもしれない
テレビ電話による毎日の定期的な介入。指示通りの服薬の実現。テレビ電話での会話による刺激。
定期巡回での訪問に代わり、遠隔介護でもほぼ同じことができそうです。
ただ、今の日本の高齢者は、多くの場合、IT機器の操作が不得意です。新しい機器に触れることを敬遠する人も少なくありません。
医師による遠隔診療がなかなか広がらないように、遠隔介護が日本で導入されても、まず機器の導入や操作についての意識が変わっていかなくては、普及が進まないことも考えられます。
逆に言うと、IT機器への抵抗感が少ない世代が要介護者の中心となる時代が来れば、日本でも遠隔介護が行われるようになるかもしれません。
今はまだ考えられないようなことも、時代の移り変わりによって状況は変わっていきます。
介護職は、日々、目の前の高齢者をいかに支援するかに注力していますが、時には、少し先の介護がどうなるのかイメージしてみるのもよさそうです。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>
*フィンランド、デジタル技術で遠隔介護 費用9割減の自治体も(SankeiBiz 2019年9月16日)