■書名:本人の意思を尊重する意思決定支援:事例で学ぶアドバンス・ケア・プランニング
■編集者:西川 満則、長江 弘子、横江 由理子
■出版社:南山堂
■発行年月:2016年12月
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最期まで“その人らしく”いるために。ケア現場で注目の「ACP」を学ぶ一冊
誰もがいつかは迎える死。それがどのようなものなのかは人それぞれ。
大病を経験することもなく長寿をまっとうする人もいれば、長年の闘病生活を送ってきた人もいる。延命治療を望む人、そうでない人。また、認知症を患い、意思を確認できない人もいるだろう。
医療従事者が最善を尽くしても、それが本当にその人の望むものかどうかはわからない。さらに、残された家族がその死に納得できないこともある。
人がその人らしく、尊厳ある死を迎えるには前々から準備をしておく必要があり、その重要性は高まっているといえる。
本書で紹介している『アドバンス・ケア・プランニング(ACP)』とは、「将来の意思決定能力の低下に備えて、今後の治療・ケア・生活について、本人・家族など大切な人や医療者が話し合うプロセス」のことである。
話し合う内容は、現在の病状と今後の見通しだけではなく、本人の価値観や希望、人生や生活の意向を含む。
心身状態の悪化など、時間が経過する中で病状が変化することを前提として、さまざまな局面でACPに基づいた話し合いを繰り返し行うものと定義されている。
ACPの重要性について、本書には次のように記されている。
<本人の意向に沿った医療やケアの選択は、最期まで尊厳ある生を自分らしく生きることに貢献する。この時に必要なことは本人、家族、医療者の3者がやり取りする情報の意味や選択の理由を相互に理解し、共に“本人の最善”とは何かを考え吟味することである。決して、本人の意見を家族や医療者が吟味することなくそのまま受け入れることではない。本人の最善についてそれぞれの立場で考え、互いの価値観を受け入れながら相互に理解していくプロセスが重要である。>
本書は、
・「理論編」:専門家によるACPの解説
・「事例編」:現場医療者によるさまざまなケースの紹介
・「展開編」:編集者による座談会
の3構成。41例という豊富な事例から、ACPとは何か、実際にどう対処すればいいのかを学べるようになっている。
「事例編」では、本人の意思を過去・現在・未来の3つの時間軸(「本人の意思の3本柱」)でとらえ、それに医学的判断と家族の意向を加味して、具体的なアプローチや結果が掲載されている。
目次には、「本人と家族の意向が乖離した超高齢心不全患者の人工栄養法の選択」「遠い緩和ケア病棟と自宅近くの病院についての療養環境の選択」「本人の意思推定は難しく、救命の可能性があるにもかかわらず安楽死を望む家族の支援」など、具体的な見出しが並んでいて一目で内容がわかる。
さらに、それぞれの事例には、「疾患別」「場所」「時間」「本人の現在意思の有無」「代理意思決定者」「対立内容(本人/家族、本人/医療者、家族/医療者などの対人別と、告知、透析、人工呼吸器などの事項別)」「倫理的課題(自律、善行、無危害、公平・公正)」についてのインデックスもあり、きちんと整理しながら読み進められるのが嬉しい。
紹介されている事例はバラエティに富み、一人の患者の生をめぐる短編小説を読むような気分にもなる。本人の意思はもちろん、家族の気持ちや医療従事者の意向も簡潔にまとめられているので、現実の出来事としてイメージしやすいだろう。
本人と家族の気持ちに大きなずれや対立があったり、医療上重視されることと本人が重視することの違いが明らかになったりして、「その人らしく生きる」とは何かを考えさせられる。話し合いを重ね、同じ意識・情報を共有するプロセスを重視するのも、うなずける。
医療関係者だけではなく、介護職にとっても、毎日ケアをしている利用者の気持ちを理解し、よりよいサービスを提供する上で大いに参考になる一冊だ。
編集者プロフィール
西川 満則(にしかわ・みつのり)さん
国立長寿医療研究センター病院緩和ケア診療部/エンド・オブ・ライフケアチーム医師。
長江 弘子(ながえ・ひろこ)さん
東京女子医科大学看護学部老年看護学教授。
横江 由理子(よこえ・ゆりこ)さん
いきいき在宅クリニック 緩和ケア認定看護師。