■書名:介護とはなにか 結局、自分のためになること
■著者:趙 成寅
■出版社:ブイツーソリューション
■発行年月:2018年3月
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介護の本質とは何か?―現役介護職の著者が現場で感じた“答え”に迫る一冊
「介護とは何か」――介護の現場で働く現役の介護職や、介護職をこれから目指す人であれば、考えを深めておきたい大きなテーマだ。
しかし、介護の本質について明確な答えを書いた教科書はなく、しかもその答えはひとつではない。
この難しいテーマに、真正面から向き合っているのが本書だ。
著者の趙(チョ)さんは、韓国出身でありながら、7年以上にわたり日本で介護の仕事に携わってきた人。国際結婚の後に来日し、老人ホーム、デイサービス、訪問入浴などの介護職を経て、今は介護支援専門員(ケアマネジャー)として働いている。
本書では、「介護とは」というフレーズを幾度となく繰り返しながら、介護の本質に迫っていく。
「介護とは」という問いに対して最初に著者が出した答えについて、訪問入浴に出向いた先で聞いた言葉を引用しながら、このように話している。
<ある日、奥さんに突然、“介護は、限りなく辛くて大変だけど、結局、自分のためになるということが、ついに分かりました”と言われました。
介護は、この言葉の意味を探っていくことだと思っております。>
本書のサブタイトルにあるとおり、介護は「結局、自分のためになる」のだということだ。
さらに、介護現場で感じた介護の本質について、著者はこのようにも表現している。
<理想的な介護は、自己愛を忘れ、他者愛の実践であると言われている。しかし、その他者愛の実践の為に欠かせないのは、利己心なのだ。つまり、介護の原動力は、”利己的な他者愛”である。(中略)介護とは何か。そうだ。この感じ、達成感ではないか。他人の為、心身で頑張って、そして、それに何倍もの利子がついて、自分自身の幸せとして戻ってくること……>
この言葉のとおりに、多くの利用者から感謝の言葉をかけられて、著者が歓喜の瞬間を味わってきた様子も多く紹介されている。
本書を読んでいると、著者の率直さや正直さが際立っていることにも気がつく。
介護で避けがちな話題から逃げず、とりつくろうこともないので、新鮮な驚きがある。
介護とは、きれいごとだけでは済まない仕事であることは誰もが知っていながら、介護職の気持ちについてこれまでこのように率直に書かれることは少なかったのではないだろうか。
たとえば排泄介助について、著者は今もその不快感に慣れることができないという。汚い、臭い、という感情が消えることはないのだそうだ。そして、「激しい自分との戦いが、今日も続いている」とも言っている。
現在、介護職に就いている方なら、自分の悩みの良き理解者を見つけたような気持ちになるに違いない。
また、今の介護業界の現状に警鐘を鳴らすことにもためらいがない。著者が以前働いていた老人ホームを刑務所と比較した言葉は、かなりショッキングなものだ。
「いつか外に出られるという希望を持てる刑務所の方が、もっと人間らしい場所かもしれない」とまで感じたという。介護の現場で感じたこうした素直な気持ちも隠すことがなく描かれている。
現役介護職のエッセイとして、さらりと読める文章だが、教科書的な本では決して得ることのできない内容ばかりだ。
この一冊に、ひとりの非凡な介護職の想いがつまっているのが感じられる。
著者プロフィール
趙 成寅(チョ・ソンイン)さん
1978年韓国ソウル生まれ。国際貿易士、TOEIC920点取得。海外営業部に在職中、2010年国際結婚後来日。日本語能力試験1級、介護福祉士、介護支援専門員取得。現在、Nケアセンターで介護支援専門員として勤務中。