■書名:老後と介護を劇的に変える食事術:食べてしゃべって、肺炎、虚弱、認知症を防ぐ
■著者:川口 美喜子
■出版社:晶文社
■発行年月:2018年1月
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「食べる」「しゃべる」は、高齢になっても元気に生きるための原動力!
食べる、しゃべる。私たちが「口」を使ってごく自然に行っている行為だ。「食べること」「しゃべること」ができなくなったとしたら、と考える人は、そう多くはないだろう。
考えたとしても、困るだろうな、不便だろうな程度の思いしか浮かばないのではないだろうか。
しかし、「食べられない」ことがもたらすさまざまな悪影響を知ると、そんな悠長なことは言っていられなくなる。
死ぬまで健康に生きるためには「口」を守ることが大切。そのノウハウを伝授してくれるのが本書だ。
筆者の川口さんは、管理栄養士として鳥取県の大学病院で食事を通して治療に参加してきた。
その後、東京で後進育成のため大学教員として勤務しながら、在宅療養をしている人の栄養ケアにボランティアで携わっている。いわば「食」のプロだ。
そんな川口さんが専門とする栄養学の立場から、「食べる」ということの大切さを説く本書の構成は次の通り。
1 普段の生活の中で始まる「食べられない」を知っておく
2 「食べられない」が招くリスク
3 「食べる」を弱らせない食べ方・暮らし方
4 身近にある「食支援」――「食べる」を支えるプロのケア
5 「食べる」とあわせて守りたい「しゃべる」生活
6 「食べる」「しゃべる」から考える認知症
高齢者の場合、食べているつもりでも食べられていないことがある。食べる機能の低下や口腔内のトラブル、体調不良や病気・けが、それらの治療の影響、薬の副作用などが「食べられない」原因になるという。
その「食べられない」状態から低栄養になり、フレイル(加齢による心身の虚弱状態)を引き起こす。低栄養やフレイルは、褥瘡(じょくそう)の原因にもなるというから、たかが食事と侮れない。
こうした状況に陥らないために、筆者がすすめているのは、バランスよく食べることと、食事の量より質を重視すること。
さらに、「食事は1日3回」「間食は控える」「手作りの食事でなければならない」などの固定観念や慣習を取り除くことが大切だと、アドバイスをしている。
そして、専門家による食支援を上手に利用することもすすめている。
高齢者の健康について、「食べる」ことに加えて「しゃべる」ことの重要性も、あわせて解説。
<「しゃべる」というのは、周囲のつながりをどう感じているかや、生活意欲、思いなどが表現される行為の一つなので、高齢期の健康を考えるとき、「食べる」だけでなく、「しゃべる」にも気をつける必要があるとお伝えしたいのです。>
どの章にも、川口さんが出会った患者や利用者の方との実例が出てきて、その経験の豊富さが全編を通して伝わってくる。
認知症になっても「食べる」ことを完全に忘れてしまった人に会ったことはないし、医学的根拠はないものの、「しゃべる」ことの認知症予防効果に希望を持っているという。多くの人と接してきたからこその揺るぎない実感なのだろう。
たくさんの実体験に基づいて語られる「口」をめぐる話は、とても読みやすく分かりやすい。
食べる機能の低下を予防する口の体操や、食べやすい環境にするためのポイントなど、具体的なアドバイスも多く、介護の現場でも使えそうだ。
最後に、介護に携わる人にとって、人と人が関わりを持つことの重要性をも教えてくれるものとして、川口さんの言葉を紹介したい。
<「食べる口」と「しゃべる口」の健康度は、相関関係にあることが多く、どちらの口にも悪影響を与えるものが不本意な「孤独」です。人は人を理解し、人から理解され、人の和の中に在りたいという集団欲求があり、社会性の強い動物なので、「孤独」が続くと、「食べる」「しゃべる」気が失せ、あらゆることに対する興味や他者への思いやりを失い、より孤立して、生命力が弱ってしまうことが多いのです。>
本書は、「食べる」「しゃべる」の効用を見直し、コミュニケーションのあり方を考え直すきっかけを与えてくれることだろう。
介護職にとっても、介護現場で高齢者を支援するうえで役に立つ1冊となるはずだ。
著者プロフィール
川口 美喜子(かわぐち・みきこ)さん
大妻女子大学家政学部教授、管理栄養士、医学博士。専門は病態栄養学、がん病態栄養並びにスポーツ栄養。島根大学医学部附属病院で、栄養管理室長を務め、NST(栄養サポートチーム)を立ち上げるなど、病院の中で食事を通して、治療に積極的に参加してきた。現在は、大学で後進を育てながら、地域医療のパイオニアの一人、秋山正子氏が主宰する「暮らしの保健室」(東京・新宿区)などにて、在宅栄養指導、給食での栄養ケアも行なっている。問題を抱える多くの人のために、その卓越した栄養学の知識を具体的な食事に落とし込んで支援している。