2015年4月、介護と保育の資格を統合する案が浮上しているという報道がありました(*)。これは、特に地方の人材不足を視野に入れて考えられていること。
少子高齢化が進むと人材確保が困難になるため、介護施設、保育施設、障害者施設を1カ所にまとめて運営し、1人の職員が高齢者、子ども、障害者のケアすべてを提供できるようにするというものです。
都市部では保育施設不足が課題となっていますが、いまのニーズに合わせて施設を整備すれば、少子化がさらに進んだときには多すぎてあまってしまうはず。それなら、さまざまな対象者に対応できる施設群をつくり、オールマイティな職員を揃えれば効率的に運営できると、国は考えたようです。
この報道を受けて、介護や保育の現場は猛反発。「子どもと高齢者を同時に見るなんて無理」「現場を知らない机上の空論」「それぞれの専門性をなんだと思っているんだ」といった意見が、インターネット上にあふれました。
国の思惑はともかく、子どもや障害者、高齢者を同時に見るのは本当に無理なのでしょうか?
子どもも障害者も高齢者も集うデイケアハウス
「富山型デイサービス」をご存じでしょうか。病院でのケアに限界を感じた看護師3人が、高齢者も子どもも障害者も、ひとつ屋根の下でケアをしたいと考えて始めた「このゆびとーまれ」が、最初の富山型デイサービス。
民家を改造した戸建ての住宅などで、こぢんまりとした家庭的な雰囲気の中、子ども、障害者、高齢者など、さまざまな利用者が家族のように過ごすのが富山型デイサービスの特徴です。子どもや赤ちゃんと過ごし、一緒に歌を歌ったり、子どもたちの世話をしたりするのは、高齢者にとって一番のリハビリ。子どもがいれば、わざわざリハビリをする必要がないと、「このゆびとーまれ」の開設者の一人は言います。
「このゆびとーまれ」に影響を受け、富山県内では次々と小規模でさまざまな機能を持つデイサービスが開設されていきました。行政の支援がないところでスタートした富山型デイサービスですが、次第に行政もその実績を認め、今では独自に規制を緩和したり補助金を出したりするなど、全面的にバックアップ。全国から視察が訪れるようになり、今や富山県内に80カ所、全国にも600カ所まで増えています。
富山型デイサービスに集まる人達は、一方的にケアをされる立場なのではありません。それぞれが自分にできる役割を果たしながら過ごしています。障害者が部屋の掃除をし、認知症の高齢者が来たお客にお茶を出し、子どもにおやつを食べさせる。反対に、子どもが自分では食べられない高齢者に食事を食べさせることもあります。
富山型デイサービスは「共生」の場。共に助け合いながら過ごすことで、それぞれが自分の居場所、自分の存在価値を見出しているのです。
いろいろな人がいることでいろいろな役割が生まれてくる
富山型デイサービスを運営する、ある管理者はこう言います。
「例えば高齢者だけが集まると、役割が固定してしまいがち。でも、子どもや障害者、高齢者など、いろいろな人がいれば、自分とは違う相手を認めやすくなる。そこで自然とお互いのできないことを補い合い、それぞれに役割が生まれてくるんです。職員もお世話係になるのではなく、ここが自分の居場所だと思って一緒に過ごします。ケンカが起きたらそれを止めるのではなく、なぜけんかになったのかをよく見てみる。ティッシュを食べる認知症の人がいたら、ティッシュを隠すのではなく、それはおいしくないからおやつを食べようよ、と声をかける。そういう当たり前の対応をすればいいんです」
現状でも忙しすぎて手が回らない現場にいると、この上、子どもや障害者、高齢者まで一緒にケアするなんてとても無理、と感じるのは自然なことです。しかし、もし世話をする人・される人という固定観念をはずし、いろいろな個性と特徴を持つ人達が一緒に過ごす中で、どう役割分担すればうまくいくか、という発想で考えてみたらどうでしょう。何か違う視点が生まれてくるのかもしれません。
<文:宮下公美子>
* 介護・保育士資格:統合、厚労省検討 人材確保狙い (毎日新聞 2015年4月11日)