がん末期の支援は難しい…適切な介護・治療には信頼関係が不可欠
2006年から、40~64歳のがん末期の方も介護保険が利用できるようになり、特に在宅ではがんを持つ方のケアをすることが増えました。介護保険の対象になるのは、余命がおおむね6ヶ月程度と主治医が診断した人です。
がん末期のような厳しい状況にある方への支援は非常に難しい。介護、医療関係者はそう指摘しています。
がんを持つ人は、多くの場合、まず病院で手術や抗がん剤などの治療を受けます。
そして、病気の進行により治療効果が見られなくなると、病院からその後の対応についての選択を求められます。
ホスピスに移るか。自宅に戻って在宅療養するか。選択肢は多くありません。
治ることを期待して受けていた治療の終了を告げられ、病院からも退院を求められる。患者はもちろん、その家族も大きな精神的ダメージを受け、次の療養の場へ。
本人は生きる意欲を失い、家族は大切な人を失う恐怖で気持ちが不安定になっていることもあります。中には、「病院に見捨てられた」と感じる人もいます。
ある在宅医は、そうして医療への不信感を抱くようになった人に対しては、その気持ちをほぐすことに非常に気を遣うといいます。
がん末期の診断を受けた人に残された時間はわずかです。信頼関係を築く時間も限られます。しかし、信頼関係がない状態でいい医療を提供することはできません。
病状の進行に要介護認定が追い付かない!
限られた時間の中で信頼関係を築くことに尽力するのは、ケアを提供するケアマネジャーなども同じです。
短時間で信頼関係を築く努力をしながら、刻々と変わっていく本人の状態に合わせて、次々と必要な介護サービスを入れていく。それは難しいことだと、あるケアマネジャーは語ります。
本人を支えようとする家族も、大切な人を失う恐怖におびえながら、心にゆとりのない状態で日々を過ごしていることが多いのです。ケアマネジャーの言葉が、すぐには耳に入らないこともあるでしょう。
ケアマネジメントを引き受けたがん末期の人は、要介護認定の申請をしてから、おおむね1ヶ月以内で亡くなることが多いと、そのケアマネジャーはいいます。しかも、認定調査の時点ではまだ元気な場合が多く、下りた認定は要支援の場合もあるとのこと。
がん末期の人はガクガクと状態が悪化していきますが、その過程で必要になることが多い介護ベッド、車椅子などは、原則として要介護2以上でないと利用できません。
そのため、「例外給付」の手続が必要になり、タイムリーなサービス提供がしにくいといいます。
介護現場からの働きかけで、より運用しやすい介護保険に
がん末期の人が、病状が進んだ時に必要な介護サービスが受けられないかもしれないという現状を受け、あるケアマネジャーは地域の事業者団体の意見、要望を取りまとめました。そして、がん末期の人の要介護認定のあり方や、認定調査の方法について、保険者である行政に提案を行いました。
残念ながら、すぐにはルールの変更には至りませんでしたが、行政にがん末期の人への支援についての問題を認識してもらうことはできたのです。
この末期がんの問題を始め、介護の現場には、様々な課題、問題があります。
制度をつくり、運用する行政は、現場の課題や問題には気付かない場合もあります。現場から、課題を伝えていくのは大切なことなのです。
「言ってもどうせ変わらない」と、最初から諦めて行動しない介護職もいます。
確かに、行政はなかなか動かないかもしれません。行政を動かすには、相当の忍耐と時間が必要でしょう。
しかし、現場から伝えなければ、事態が変わらないこともあるのです。
現場がより運用しやすい介護保険にしていくためには、現場からの発信、働きかけは不可欠です。介護職一人ひとりが、そのことをどうか忘れずにいてほしいと思います。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>