毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。今週は、前回に続いて“若いヘルパーの言葉”の話。「敬語がまるでダメな介護士でもOK?」という話題について紹介します。
若い介護スタッフが、頑張って敬語を使ってみるものの…
若者が社会に出ると、まず真っ先に直されるのが「言葉遣い」ではないだろうか。携帯電話がなかった世代の人間は、「○○と申しますが、××さんのお宅ですか?」「△△さんいらっしゃいますか?」といった具合に、電話で最低限の敬語を覚えたものだが、それももはや過去の話。都内の介護事業所で若手スタッフを統括するHさんは、その“惨状”をこう語る。
「若い子たちは、みんな自分なりに敬語を使おうとするんですが、これまでの人生で、ほとんど敬語を使ったことがない子もたくさんいます。しょっちゅう使い方を間違えてますよ。私に向かって『これやっといて頂けますか?』や、『これ、拝見しておいて下さい』と言うこともしばしば。また、利用者さんが私に伝えることがある時に、若い子は『ではHさんに申し上げておきます』と言うのを聞いたことがあります。『惜しいけど違う(笑)』とか言いながら注意してますけどね」
また、下手に接客経験があると、それが裏目に出るパターンもあるという。
「最近、若い女の子がやっていて注意したのは“バイト敬語”ですね。『よろしかったでしょうか?』とか、『食事の方』『お掃除の方』など『○○の方』とつけるアレです。我々の年代は(Hさんは40代)、もはや聞き慣れていて気にも留めませんが、お年寄りは気になるみたいですね」
敬語が使えない、体育会系のAくん
ヘルパーと利用者の関係は、「店員とお客さま」の関係に近くもあるが、ヘルパーになったばかりの若者が、接客業とは異なる“人情の機微”を理解するのは難しいようだ。一方では、本人のキャラクターで押し切ってしまう“剛の者”もいるという。
格闘技系の元アスリートだったA君は、筋骨隆々の引き締まった体の持ち主。抜群の体力を誇り、嫌な仕事も黙々とこなす事業所の期待の星で、利用者からも愛されている。だが、Hさんいわく「唯一の欠点がボキャブラリーの少なさ」だという。
「A君は人見知りで、もともと無口なんですが、話してみるとボソボソと『そうッス』『自分は……ッス』『分からないッス』と、会話の語尾は全部『……ッス』なんです。筋金入りの体育会系のA君は、『先輩を敬う』という感覚は強く持っているみたいなんですが、敬語はまったく使えないんですよね。で、全部『…ッス』でゴマかしていると」
それでもA君の持って生まれたキャラクターのせいか、はたまた誠実な仕事ぶりにより目をつぶってもらえているのか、利用者からA君の言葉遣いに対するクレームが寄せられたことはないそうだ。これをみると、正しい言葉遣いももちろん大事だが、「最後は気持ちの問題」という部分も大きいようだ。