毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「正直は正直でも“バカ正直”なのは……」という話題について紹介します。
「期待の新人ヘルパー」のはずが…
「正直」というのは100%褒め言葉のはずだが、それに「バカ」がついて「バカ正直」となると、それはそれで問題だ。
世の中を渡っていくには、時にお世辞や小さなウソも必要なはずだが、それを一切できないモンスターが都内の下町の訪問介護事業所に出現し、騒動を撒き散らしているという。
騒動の主である男性のAさんは、都内の介護系専門学校を経て、事業所に入所した人物。
その事業所は、その専門学校から毎年新人を定期採用していて、これまで特に問題がある人物は一人もいなかったが、Aさんにはほとほと困り果てているという。
事業所の女性スタッフ、モリタさんが語る。
「Aさんは、高校生の頃から介護の世界に進むことを考えていたそうで、専門学校の成績も優秀。面接では、自分の家族のエピソードなどを交えて介護業界を志望した理由を話し、減点ポイントはまったくありませんでした。
ウチの事業所は女性の比率が圧倒的に高く、スタッフの8割近くが女性なので、まさに期待の星でした」
そして今年の4月にスタッフの一員となったAさん。
しかしわずか数日で、周囲が「おやっ?」と思うような発言がAさんから飛び出す。
素直で正直なのはいいことだけ?
「何人かでお弁当を食べている時、年配の女性スタッフが、手作り弁当の中からAさんにおかずを1品あげたら、Aさんが、『うーん、全然味がないですね』と言ったんです。
その時は、おかずをあげた女性が、『若い人には味が薄かったのかしらね』と、フォローしたのですが……」
Aさんは、その後も「疲れてない?」と聞かれて、「ハイ、早く帰りたいです」と答えたり、遅刻をした挙句、理由を「二日酔いです」と言ったり、女性スタッフの私服を「似合わない」と言ったりと、空気の読めない発言を連発。
「Aさんは苦手」というスタッフが次々と出てきてしまったため、勤務歴が長いモリタさんが代表で面談したところ、Aさんからは驚きの答えが返ってきたそうだ。
「私がそれまでのAさんの発言を取り上げて、『社会人として、それで良いと思っているの?』と尋ねると、Aさんは、『正直に言うことの何が悪いんですか?』『じゃあウソをつけば良かったんですか?』と、言い返してきたんです。
どうやらAさんは、『とにかく絶対にウソをついてはいけない』という教育方針の家庭で育ってきたようで、聞かれたことには正直に答えるのが正解だと信じており、私の能力ではAさんの考えを改めることはできませんでした」
不幸中の幸いというべきか、Aさんは口数が少なく、自分の思いを積極的に発信することはないため、今では必要事項以外のことをAさんと話す人は少なくなり、Aさんもその状態をさほど気にしていないようだ。
今のところ、訪問先では問題を起こしていないが、モリタさんはAさんの“バカ正直爆弾”がいつ破裂するのか、気が気でないそうだ。