毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。今週は、「従業員が満足なら利用者も満足」という話題について紹介します。
利用者の不満を募り、改善に取り組む
ビジネスシーンでしばしば聞く言葉に、「Win-Win(ウィン・ウィン)」というものがある。これはもともと、アメリカの経営コンサルタント・スティーブン・R・コヴィーが90年代後半に著し、世界的ベストセラーとなった『7つの習慣』の中で使われたもの。「自分も相手も勝つ=その場にいる皆が満足する」ということを意味し、今でも多くの場で使われている。
日本でも、近江商人は「三方よし=売り手よし 買い手よし 世間よし」(売り手の満足だけでなく、買い手が満足し、さらに商品の売買によって社会貢献を目指す)というやり方で成功を収めた。
介護の現場でもこれを実践している施設があるという。近畿地方の介護施設に勤める女性・Nさんが、その取り組みを語る。
Nさんは大学を卒業後、会社員、専業主婦を経て介護職員に。しかし「近所だから」という理由だけで勤め始めたその施設は、少々問題があるところだった。Nさんは語る。
「とにかく“お局様”を中心としたベテラン職員が酷かったんです。彼女たちは“楽な利用者”の介護しかせず、“面倒な利用者”の対応は全部若い子に押し付けていました。しかも彼女たちは、しばしばマニュアルを無視した自己流のケアをし、それを指摘すると『マニュアルと現場は違う』といって、最初からマニュアルを守る気もない。利用者や家族から不満が出ると、『イヤなら出て行け』というような暴言を吐く職員もいました」
しかし幸いなことに経営者が代替わりすると、こういった悪習は一新された。まず、施設では利用者に満足度を尋ねる調査を実施した。その結果、利用者からは、「対応が遅い」「笑顔がない」「技術が足りない」などの不満が出た。
介護職員の意識の変化は、利用者にも影響する?
調査だけなら、どんな施設でもできそうだが、新経営者は“もう一歩先”を目指していた。
利用者の満足度を問うとともに、職員に対しても同様のアンケートを実施。職員の不満を吸い上げ、それらを改善することを目指したのだ。
これにより、給与の見直しや報酬体系の透明化(それまではサービス残業が少なくなかった)が図られ、“特にタチの悪かったお局様”が辞めさせられたり、職員の休憩室が広くなったりと、不満な点が目に見えて解消された。Nさんによれば、職員の勤労意欲は目に見えて上がり、利用者の笑顔も増えたという。
Nさんによれば、「人手が足りない」「トイレがボロい」など、施設に対する不満はまだまだいくらでもあるものの、「従業員がハッピーでなければ、利用者がハッピーであるはずがない」という新経営者の姿勢は、職員に支持されているという。
「従業員の不満を取り除けば、従業員が提供するサービスの品質があがる」。これは介護に限らず、不変の法則とも言えるだろう。様々な場面で参考になりそうだ。
公開日:2016/5/2
最終更新日:2019/4/14